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 トラウマ

「讃岐さんとこの…」

「…亡くなった…」

「ほんまに…」

「あの子が」

ひそひそ、ひそひそ。
おとましい。

「かわいそうに」

「いけるんな?」

「…どなんしたん?」

「何があったん?」

ええ顔しいが、おとましい。
ほんまは俺のことやどうでもええくせに、心配したように言うんはやめてほしい。

「心配」した顔のあいだでちらつく「興味」の目がおとましい。

ひそひそひそ。
ああやかましい、うっとおしい。

「真魚さん」

何やろか、この声は。

「大丈夫ですか、真魚さん」

この声、これは…。

「真魚さん!」

「!!」

目を開けたら、心配げにのぞきこむ遊子ちゃんの顔が目の前いっぱいに広がっとった。

「大丈夫でスか…真魚さん…?」

「あ…俺…」

「真魚さん…」

あ。いかん、遊子ちゃんが心配げな顔しとる。
とりあえず立たんといかんな。
よっこらせっと…。

「…おかえり〜。遊子ちゃん! すまんなあ、俺寝てしもとったみたいや。すぐ…」

しゃべろうとしたら、いきなり俺はあったかいもんに包み込まれた。
遊子ちゃんが前からだきついてきとった。

「遊子ちゃん…? どなんしたん?」

聞いてみたけど、遊子ちゃんは何ちゃ言わんと俺を抱きしめるだけやった。
こんまい手が俺の背中をやさしくなでる。
何べんも何べんも…。

あったかい。
気持ちが落ち着く。

「真魚さんはひとりじゃないンです。そばには、イツも私がいます。
 ちょっと頼りないカモですが…」

「……うん」

「悩んだり、こまってイタら私に言ってください!
 どーんと解決…はできないカモですが…」

「……うん。
 ありがとう」

俺はなんかたまらんようになって、遊子ちゃんをぎゅっと抱きしめかえした。
遊子ちゃんも、背中をなでとったた手を止めてぎゅっと抱きしめ返してくれた。

ああ、俺、しあわせやなぁ。


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